せい氣院

バセドウ病

私がまだ開業して間もない頃、友人の紹介で見て欲しいという女性の方がいらっしゃいました(仮にAさんとします)。そのAさんのご相談の主訴が「バセドウ病で悩んでいる」ということでした。

バセドウ病は喉にある甲状腺のホルモンが過剰に作られる病気であり、甲状腺機能亢進症を伴う難病です。具体的には動悸や冷や汗、カッカするという症状に悩まされます。

病院で行う治療法は投薬、手術、放射線療法のいずれかになりますが、完治は難しいというのが現代医療の見方のようです。

そのバセドウ病を整体ではどう観るかということですが、Aさんの場合はまず背中の中央が硬くなり大きく盛り上がっているのが印象的で、そこにじっと手を当てて観察していると「・・・(強烈に)ガマンしている」という気持ちが感じられました。

仕事のストレスからバセドウ病に

少しお話を伺うと、「いま働いている職場の雰囲気があまり良くない」ということが判りました。

仕事場のスタッフが2つのグループに分かれていて、比較的新しいスタッフであるAさんはそのいずれにも属さない立場で、板挟みになって働いているような状態なのだそうです。

言いたいことも言えず、じっと押し黙って働いているうちに、動悸や冷や汗、顔がぽーっとするような症状に悩むようになっていったそうです。

身体の様子を観ながらお話を伺いますと、心情的にもたいへんよく判る内容でした。

ですが、そのAさんは3ヶ月ほど通ううちに来院当初の動機や気が上がる感覚がだいぶ、というかほとんど無くなってしまいました。

その間やったことと言えば、背中の盛り上がっている硬い箇所に手当てをして、そして毎回何十分かお話を聞いていただけです。

ただ治癒に大きく影響したと考えられるのは、時期を同じくしてAさんのご結婚が決まり寿退職されることになったということです。

ようやくいい形で仕事を辞められるという安堵感に加えて、日々楽しい空想をして暮らしているうちに、身体は確実に良い方へ変わり、うす紙を剥ぐように元気になっていかれたのです。

当時まだ開業して間もなく経験も浅かったのですが、人が病気になったり治ったりする仕組みを直接的に学べた貴重な体験でした。

病症が意味するもの

その後バセドウ病のご相談を何度か受けてきましたが、皆さん一様に背中の中央部が硬いのです。

ですが、当然ストレスの原因はそれぞれ全く違います。そういう心の緊張を解きほぐすことが出来れば、どんな症状でも少しずつ楽になってきます。

整体のような手技の領域においては、甲状腺という「部分・細部」の研究は西洋医療に遠く及びません。

その代り、整体は心も含めたその人全体を観ます。そうすると部分だけを見ていてはわからないものに気がつくことがあるのです。

難病といってもそれは人間がそう名付けただけで、本来病気は身体のバランスを回復しようとしてなっている「生きるための力」です。

ですから、病症が訴えている「心の声」を聞くことで、そこから解決のヒントが必ず見つかります。そういう観点からいえば、バセドウ病の症状もその人の全体を理解するためには、取り組みやすい病気だと思うようになりました。

ちなみにAさんは現在お子さんも授かって、お元気に生活されています。病気とは一体何のためにあるのか、後々まで深く考えされられる感慨深い出来事でした。