せい氣院

背骨に現れる感情

背骨の観察

整体というと一般には「曲がった背骨を見つけ出してまっすぐに治す技術」と思われています。しかしその実際は物理的に骨を動かすような技術は用いません。

そもそも背骨は外部からの刺激のみならず、内臓器官などを含む体内の動き、また感情や精神活動の影響といった身体全体の調和的はたらきによって自律的に変位するものです。よってこれを正位に正すことにおいても、心の働きを無視して物理的な圧だけに頼っても奏功しません。

そこで愉気という整体特有の気の感応作用によって身心のこわばりをゆるめ、骨格のひずみが自然に修正されるように導きます。

背骨のこわばり - 硬結について

背骨は首から腰部まで二十四個あり、そこからさらに仙骨、尾骨(お尻の先の骨)まで続いています。そしてその一つ一つが管状になり、中心を脊髄神経が通っています。

脳から伸びた神経が背骨の穴(椎孔)を通って内臓や筋肉を動かしたり、逆に臓器の状況を脳に知らせたりしています。つまりこの信号には脳→脊髄→末端という遠心と、末端→脊髄→脳という求心の双方向性があります。

よって筋肉の疲労状況や身体の生理的な状態は全て背骨の表情となって現れます。この背骨の一つ一つに指で触れて観察することで、特定の疲労箇所や鈍っている場所、心理的背景などを推察することができるのです。

具体的には背骨の両側に固い箇所ができ、これがさらに凝固すると「硬結(こうけつ)」という豆粒のような感触の塊が浮かんできます。

指で押しても硬結が消えることもありますが、整体は揉みほぐしの技術ではありません。硬結を揉み消すことよりも、全身の中でそこの固さがどんな意味を為しているのか?」を読み取り全身心を調和に導くことでコリやこわばりが自ずと解消されるように導くことが大切です。

背骨は人間の歴史

実際の臨床では背骨から得た情報を元に、その人がどのような生活をして今の体になったのかを考えていくことが重要になります。整体の技術でもっとも重要なのはこの観察です。

背骨の観察によって得られた情報を基に相手の生活環境までを視野に入れた改善に取り組むことが整体指導の中心となるからです。

例えば嫌なことを我慢していると腰がこわばったり、胸椎部(肩甲骨の間あたり)の背骨が捻じれたりします。

また怒りを抑えていると背骨の棘突起が全体的に頭の方へ上がるタイプの人がいます。またびっくりした時は棘突起に触ると一つ一つがチクチクととがったような感触になります。

子どもの頃にこうした特定の感情が繰り返された結果、その身体にはその人独自の雰囲気が漂っています。

背骨に弾力があって、頭からお尻までスーッと通っているような人を観ると、大事に育てられた人だということがわかります。これとは逆にいろいろな事情で苦労して育った人は背骨にもそういう痕跡が見られます。

幼少期、生育期に緊張や抑制が強かったりするとそのような「習性」(パターン)が身に付いてしまい、それ以後の人生にも同じようなパターンが繰り返されていく、というようなこともあります。

病気や怪我を繰り返す人や、自分の人生がしっくりいっていない、上手く生きられていないと感じている人は、心を鎮めて自身の身心を見つめなおすことでそれまでのパターンから抜け出であらたな生活に展開していきます。心が静かになれば生命は自ずと調和に向かって動き出すからです。

背骨はその人のそれまでの人生を語るレコードのようなものです。整体指導はいつもここから出発し、よく生き、そして整った死に向かって今日を十全に生きる道を共に模索していきます。