せい氣院

自律神経失調症と整体

身心の調和を保つ自律神経

自律神経(系)とは内臓や体の各器官(目や耳や口など)の働きを自動的に調整してくれる神経です。「交感神経」と「副交感神経」に大別され、「緊張」と「弛緩」という反対の作用が交互に働くことで身心全体のバランスを取っています。

具体的には昼間活動するときには交感神経が主動となり、夜眠る時には副交感神経が主動になります。この2つの神経が交互に切り替わって働いている状態を健康体と考えて良いでしょう。

必要な時にはしっかり緊張し、休む時には深くリラックスできることは、健康生活を保つ上でもっとも大切な機能です。

私たちが何もしなくても、心臓が動きつづけたり、食べたものを消化したり、体温を一定に保ったりできるのは、全てこの自律神経が正常に働いているおかげと言えます。

逆に自律神経の働きが変調をきたすことで、身心にいろいろな異常が起こりうるのです。そのようにして現れる症状を総じて「自律神経失調症」と言っています。

自律神経失調症によくみられる症状

自律神経失調症はよく耳にする病名でありながら、その具体的な症状や治療方法どはあまり正確に認知されていません。

「何となく身体の調子がわるい」と思っていても、しばらくそのままにしてしまうとか、病院に行ったとしても「特に異常は見つかりません」と言われて、その後どこに相談したらいいか判らないということもあります。

また原因が解らないことで余計に不安になったり、病名(診断名)が付かないために周囲の人にも自分の大変さが理解されず、そのストレスで症状がさらに悪化する、ということもあるようです。このような悩みを持つ人の中に「自律神経失調症」と考えられる方が多くいらっしゃいます。

例えば、自律神経失調症の主な症状には次のようなものが上げられます。

■身体面の症状

夜ぐっすり眠れない、朝起きると心臓がドキドキする(動悸)、おでこが熱い(ほてり)、いつも疲れている、だるい、胃の不快感、吐き気、肩こりがひどく治らない、腰痛、慢性的な下痢や便秘、手足がしびれる(またはビクッとなる)、冷や汗・あぶら汗が出る、過呼吸(過換気症候群)、生理不順・・・など

■精神面の症状

理由なく気分が落ちる(鬱的気分)、何もしていない時に昂揚(興奮・カッカ)する、孤独に感じる、気持ちのアップダウンが激しい、何かに追い立てられるように焦ってしまう、原因不明の不安感・・・など

こうしてみますと、何か身体に異常をきたしたらみんな「自律神経失調症」と言えそうなくらいです。それもそのはずで、実は自律神経失調症はその概念もあいまいで、定義もしっかり統一されていない病気なのです。

因みに日本心身医学会によると、自律神経失調症は「種々の自律神経の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの」と暫定的に定義されていますが、実は日本以外ではこれに該当する病名はありません

以上の理由から治療法も統一されておらず、人によっては何年も原因不明の不調に悩まされるというケースもあります。一人一人をよくよく観察して原因を探り、的確に対応しなければ根本的に解決しないのが自律神経失調症なのです。

自律神経失調症に整体が有効な理由

先に書きました通り、一般に自律神経失調症は体中のさまざまな箇所にいろいろな症状が現れるために、根本治療が難しいと考えられています。

西洋医療では主に投薬により部分の不調に対しては的確に症状を抑えることは出来ますが、身心両面のバランスを整えて再発しない状態に導くことは不得手と言ってよいと思います。

整体はどのような症状であっても、身体の部分的な硬張り(コリ)を弛めていって姿勢を正すことには変わりありません。特に背中(背骨の両側)やお腹がやわらかくゆるんで、深い息ができることを目標に身体を整えることに努めます。

横隔膜の動きと心の状態は関係が深く、呼吸が変わると頭(中枢神経)の働きが変わるのです。

ですが、ただ深呼吸をすればそれで良いというものではありません。呼吸を深く「する」のではなく、柔らかくて深い息に「なる」ように身体の方を導いてやることが大切です。

一般に人が不調を訴えている時には、必ず身体(筋肉・内臓・骨など)のどこかに緊張があります。

このような緊張の信号は脳へ伝わることで、「いま身体は何らかの〈仕事〉をしている」と脳が誤認します。

そうなると、休みたい時にも交感神経が優位となって充分な休息がとれません(不眠症などがこの典型です)。

出しそびれた感情を消化する

こういった緊張のもとには、必ず前に体験した不快情動※があります。

ほとんどの場合は本人が無自覚に味わっている(潜在意識化した)不快感(いらいら、ムカムカ、ドキッ、など)の影響により、身体が硬張っているのです。

日常で起きてくる喜怒哀楽の感情をただ我慢しているだけですと、体内でくすぶってやがては身心のシコリとなってしまうのです。

このような人に、緊張している部位にじっと手を当てて意識が一定に静まるまで待っていると、その不快感を味わった時の情景が思い浮かんだり、その場の感情が再燃してカーッとなったり涙をこぼしたりすることもあります。

※情動・・・動悸、ふるえ、冷や汗など、体表上に現れる一時的で急激な不快の感情の動き。(「emotion」の訳語)

一般に、感情は身体上に発現することではじめて消化されていきます。

具体的には、しっかり泣くことで悲しみは消えますし、思いっきり笑ってしまった後ではもう可笑しくありません。

こうした感情の発現が闊達に行われることが健康生活の基本となりますが、実生活の場ではそうした喜怒哀楽の感情を抑えなければならないことが往々にしてあります。

こうした抑制の蓄積により身体が無自覚に固くなったり、また硬張ったりしてしまうのです。

病症が心を治す

当然ですが抑圧された不快情動の種類は個々の生活環境によってさまざまです。そのためにお一人お一人丁寧にお話を伺い、身体を読む(観察する)ための高い技術が求められます。

身体の異常のみならず、心の生活も振り返りながら対話を重ねていくことで、自分でも知らないような感情の動きに気づくことがよくあります。

身体に現れる全ての病症は、本人の知らせざる「心の涙」とも言えるのです。「自律神経失調症」もそうした不快情動を自分に知らせて健康を保つ力の現れであると言えるでしょう。

整体的な観察に基づいて言えば、「病症がそのまま治療になっている」のです。

自分に起きた痛みや不快感とは闘わずに「見つめる」ことで身心のバランスを取り戻すヒントが見つかると思います。

病症をなくすのではなく、症状を通じて「自分の理解を深めたい」という方には野口整体が適していると言えるでしょう。